NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●国際プロフェショナルアロマセラピスト連盟カンファレンス●
~「IFPA Aroma 2017」出張報告~
IMSI副学院長 嵯峨 慈子

2017年9月2日、英国、ロンドンにあるRegents Universityにて開催されたInternational conference「IFPA Aroma 2017」に出席しました。

 

IFPA会長のガブリエル先生、私や冨野先生の師でもあります。

このカンファレンスでは補完療法導入の歴史が長いイギリスならではのアロマセラピー臨床や研究、効果などをまとめた講演のほか、ハイチでの地震・自然災害支援について、40年来の精油の専門家であるRobert氏の安全性、皮膚反応などについて、合計4つの講演が行われました。

高い専門性があり、長期にわたる臨床と結果は、参加した英国アロマセラピストにとっても刺激的で、内容が濃かったようです。ランチタイムやコーヒーブレイクのたびにワクワク感が伝わるフィードバックが聞こえてきましたし、講演後の拍手もなかなか止まらず、質問も積極的にかわされていました。

IFPAチェアマンでオーガナイザーを務めるGabriel Mojay氏から各講師の紹介があり、カンファレンスがはじまりました。4つの講演テーマについてレポートします。

 

講演① Anita Jamesさん

子どもたちから信頼され人気のあるAnitaさん

3歳から18歳までの子どもたちに対して、幼稚園、学校でのアロマセラピー導入事例について、このプラクティスの目的、効果、興味深い経過などが報告されました。英国の子供たちはADD、ADHD、ディスレキシア、DCD(発達性協調運動障害)、dyscalculia(計算障がい)自閉症などの数も年々増えているなか、親からのネグレクト、虐待、不登校、貧困による生活難など、様々な困難をもっている子どもの数も年々増加していることが伝えられています。Anitaさんは2003年より、学校の中で子供たちを癒し、守り、そして大人になる前に、自分に対して悲観的にならず、ポジティブな心身をもつという目的とともに、アロマセラピーを役立てる仕組みづくりとサービスを提供してきました。

子供たちは、香りをかぐときに、好みや感想を自由に話せる「場」をもち、これを通じて自分が感じていることや気持ちについて、ラクに語れるようになるといいます。会話やコミュニケーションにおいて、それまでは得られなかった経験を重ねていきます。若い時期に、たとえ家庭では難しい環境にあったとしても、学校という場に「自分の居場所」を持ち、安心して、ポジティブな気持ちでいられるようにアプローチしていくのです。

さまざまな学校で10年以上活動するなか、教育機関へのアロマセラピー導入は大変なことも当然あるけれども、学校側からに完全に拒否されたことは、ただの一度もないのだそうです。使用するアロマの形は様々ですが、子どもたちは、自分専用の「香りのマイボトル」を持つことが、一番、お気に入りなのだそうです。Anitaさんのお人柄や行動力による効果も大きいと思いますが、こういう活動で、子供たちが元気になっていくというお話には、とても深い意味を感じます。

 

講演② Julia Gravesさん

地震とそのとき支援の様子を話すJuliaさん

ドイツ生まれでアメリカ、フランスなどいくつかの国に学び、プラクティスを重ねてこられた、生まれながらにしてハーバリストであるJuliaさん。心理学にも精通し、フラワーエッセンスのクリエイターでもあります。今回の講演では、2010年にあったハイチ地震に対して、現地での災害支援自然療法クリニックの立ち上げから実際の支援方法までの様子が伝えられました。

手法としては、ハーブ療法やホメオパシーも導入し、地域のリーダーやヒーラー、マッサージ師と協力する統合スタイルです。アロマセラピーだけが手法ではありませんが、生きていくために必要なことは何でも見つけていくという姿勢で、今までに4万人の方がクリニックや処方の恩恵を受け、現在でもJuliaさんは、ご夫婦で支援を続けています。

自然災害は実際にその場で体験している人でないと、真のことはわからないといいます。ハイチは世界で最も貧しい国として知られていて、この地震での被害は死者20万~30万人をこえ、物資の滞りや医療の不足など、極度の衛生問題から伝染病の蔓延、皮膚障害、内臓疾患、性的被害や犯罪などが長期にわたって続いています。様々なことがあるなかで、「水の汚染」はかなり深刻な問題だったそうで、きれいな水が手に入らないことによる不衛生状態が継続し、命にかかわる病気がひろがっていったことでした。

その汚染水(皆が使える水)しか手に入らない状況で、例えばその水に精油をほんの少量入れることで、皮膚症状が短期間で大きく変化したことや、乳房近くの腫瘍が皮膚から出てきてしまっている人のケア、その他、命に関わる外傷や病気についても写真つきで説明がありました。精油としてはラベンダー、ティートリー、パチョリなどの名前があがっていました。

Juliaさんの「生きた話」には、精油の安全性やエビデンス研究のまとめで著名なロバート先生も大変興味をもっていらっしゃいました。地震のあった2010年から7年以上になるこの活動はハイチの村の子供、女性との心のきづなになっていることが伝えられ、講演後はたくさんの拍手が送られていました。

 

講演③ Angela Greenさん

院内でのアロマセラピーの様子を説明するAngelaさん

英国ウエールズ、カーディフにあるVelindre NHS Trustは英国中で10に入る最大のガンの専門病院で、今までにがんケアのサービスを150万人に提供しています。Velindre Cancer Centre内、Clinical lead in Complementary Service(クリニカル補完療法サービス)において、Anglaさんはチームマネジメントを行いながら、2005年よりアロマセラピーを用いたケアを継続しています。

3人に一人はガンになると言われるUK。講演では病院と共同で行われる補完療法サービスのなかで、最も照会率が高く、必要性が大きいのは「不安のマネジメント」なのだそうです。患者の75%は不安を体験し、診断、治療のなかで、何度も不安の波におかされやすく、患者本人だけでなく、その家族、周りの人も、そのような心身の痛みを共有することが多いとされます。Angelaさん率いるチームでは、補完療法のナショナルガイドラインや院内の専門家のチームと共に仕組みをつくっています。

センターでは患者のみならず、その家族、友人、スタッフに対してもケアが行われています。アロマセラピーの多くは無料でサービスをうけることができ、フルタイム、パートタイムスタッフが日々の活動をサポートしています。また、アロマセラピー以外にも、REIKIやリフレクソロジー、リラクセーションテクニックも提供されています。

 

ガンケアにおけるマッサージについて

手法としてはアロマスティックを使ったケアの他、アロマセラピーマッサージも行われています。香りはプロのセラピストによって個々にブレンドされます。

この補完療法サービスの主な利点としては、不安の他、ウエルビーイング、生活の質の向上、疲労や便秘の改善、睡眠、消化、深くて効果的なリラクセーションなど、様々なことが紹介されました。

また、セラピストから患者への言葉がけやチーム活動の重要性も強調されました。いくつかの臨床報告や乳がん患者のケーススタディでは、実際に使用された精油のブレンドなども報告されました。

 

講演④ Robert Tisserandさん

精油と安全性と皮膚についての演者Robertさん

Essenntial Oil Safety の著者でもあるRobertさんからは、精油の安全性、特に皮膚に対する処方と危険性をどのように考えるか、最新のリサーチデータをもとにお話がありました。40年以上、精油の安全性、ブレンディングや活用法をまとめているパイオニアで、アロマセラピーを学ぶ人で、彼の名前を知らない人は、いないのでは?と言われる専門家。近年では数多くある世界中のリサーチから、香りの安全性、効能、変化など、様々な角度から調査し、教育活動もされています。

講演では皮膚刺激、アレルギー反応、光毒性について、それぞれのまとめがありました。精油による経費吸収率の違い、精油の酸化によるアレルギー反応のリスクなど、皮膚と精油について話がありました。性差についてもあり、いくつかの要因から、女性は男性より精油に皮膚反応がでやすいので、リスクを上乗せして、考えたほうがいいとありました。

私たちの皮膚は精油のような刺激物質ふれて、すぐに、大きな刺激が皮膚にあらわれたりしなくても、身体に入ったあと、ゆっくり1年や2年かけて出てくる部分・全身反応も見られ、これらも考慮するべきこととして紹介されています。また世界的に流行している高濃度、もしくは原液塗布についても、いくつもの資料が写真と共に紹介されました。

 

精油と光毒性について

その他、カンファレンス翌日には、安全性や化学や官能基による分類について、5時間のセミナーが行われました。ハイスピードで、たくさんの資料をカバーするセミナー。こちらは英国のセラピストも、英国在住の日本人プラクティショナーも「頭がいっぱい!」「難しい!」を連発しているほどでした。

精油研究について、単一の芳香分子であったり、ラット研究、人研究など、様々なものがあります。そうした中で、香り効果や効能については、経験上、歴史上、世界で理解されてきたことにたいしても、現在の研究にあわせていくと、全てがピッタリ、はまるものはないので、再度確認していくことが提案されました。

終了後に、英国のアロマセラピスト、IFPA理事や何人かの英国で活躍される日本人のプロフェッショナルの方とお話をしましたが、やはり精油を扱うときには、目的、対象、手法によって違いがあるものの、安全性を意識して扱うことはもちろん、エビデンスを活用し、その上で、ホリスティックアプローチに統合していくことが重要であるということが、共通の話題となりました。

 

2日間のカンファレンス、セミナーをおえて

今後も英国の本部とは連携や情報を交換しながら、指導のフレームについて話あわれることになります。今回は教育、福祉、医療の分野で活動する方から、実際の臨床や導入の工夫も伺えました。日本の習慣や仕組みなど、様々な状況を考えると、英国のような事例が次々と増えるのは難しいかもしれませんが、香りによる心身の調和、安全性を踏まえた補完療法としてのアロマセラピーが社会の中で確実に普及し、研究され、経験がつまれていることを再確認する機会となり、大変参考になりました。今後も学び続けていきたいと思います。

最後になりますが、講演者の先生方や英国ロンドン在住時代の友人や同僚な番外編写真も掲載します。

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