NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●「富山の精油工場と大自然を訪ねて」●
IMSI講師 鈴木 希

クロモジの枝葉

水蒸気蒸留法によるクロモジ精油の蒸留後

ミズメザクラの葉

蒸留後のクロモジの枝葉の足浴

はじめに

蒸留工場がある立山山麓森林組合

富山県は、標高3,000メートル級の立山連峰がそびえ、水深1000メートルの富山湾へと注ぐ水資源があり、日本の豊かな自然環境を代表する環境に恵まれています。その富山県で育まれた植物の蒸留・販売を行っている精油ブランドAROMA SELECTの精油工場を3月と5月に訪ねました。

精油工場は、富山山麓森林組合上市支所の一角にあります。富山県下で最大規模の立山山麓森林組合は、立山山麓を中心に、「木を活かす森林組合」を目指し、森林の造成・保護・保全のための間伐などを行っています。その間伐材を利用して蒸留している精油は、豊かな生態系を守り、自然と人間が「共生する」ことを目指した大切なプロジェクトの一つとなっています。今回、精油工場での蒸留の見学と合わせて、立山に生息する芳香植物の実際の生息地を、森林組合の方に特別に案内して頂きました。

 

富山で蒸留される芳香植物

蒸留されるクロモジの枝葉について説明を受ける

実際に蒸留されている植物は、クロモジ、ニオイコブシ、立山スギ、ヒマラヤスギ、ミズメザクラ、ヒノキ、アスナロ、ヨモギなどで、その種類の多さは、立山の植物の種類の多さに特徴があることを知りました。

日本に生息する植物の多くをここ立山で見ることができるそうです。

1年を通しての寒暖の差と、豊富な水資源、日本列島のほぼ中央部に位置することが影響していると考えられています。

 

クロモジ枝葉の蒸留

蒸留中のクロモジの精油とハイドロゾル


蒸留するために枝を細かく粉砕する実演

3月の蒸留見学では、クロモジの枝葉の蒸留を見学しました。

クロモジは、クスノキ科で、半日陰を好み、3mほどの高さの木で、スギ林の中に多く生息し、繁殖力もあります。同じ重さでも、太い幹より、小枝を集めて蒸留したほうが、精油抽出量が多くなるそうです。

小枝を折ると、ゆっくりとクロモジの香りが漂います。一方で葉は、薬用酒の原料として使われるそうです。精油に使われる部分と、漢方として使われる部分の両方が別々に保管されていました。

 蒸留工場に足を踏み入れた時から、クロモジの香りが蒸気熱とともに伝わり、気血が全身を巡るような、精神が向上するような気分になりました。

2つの蒸留装置があり、1つの装置で約10kgの蒸留を行っています。芳香蒸留水の上膜に、淡黄色なクロモジの精油を見ることができました。

蒸留で使用する水は、地下水が利用されています。立山から流れてきた地下水は、季節を問わず水温が安定していて、水の鮮度も素晴らしく、蒸留に適しているそうです。

クロモジの枝を粉砕する様子も見せて頂きました。この作業中、50m先の交差点付近にまで香りが伝わるそうで、道行く人を驚かせます。

クロモジの芳香の強さと、空気が新鮮だからでしょうか。なんとも贅沢で羨ましい環境に感じます。

 

ヨモギの葉の蒸留

ヨモギの青い精油を蒸留

5月に、再び精油工場を訪ねました。クロモジの蒸留を見学させて頂いた際に、ヨモギの蒸留についてのお話を伺い、精油もとても印象深く感じたことが記憶に残っていたからです。そして、精油が綺麗なブルーをしていることも興味を駆り立てられました。

ヨモギは河川の土手や野原などに自生するキク科の植物で、草餅や漢方、お茶として使われており、日本人になじみの深い植物の一つです。他の原材料と比べてヨモギから抽出できる精油はごく僅かなため、精油抽出を見学できるのは、貴重な機会でした。

カモミール・ジャーマンも水蒸気蒸留法で抽出する際、ブルーの精油が抽出されますが、このヨモギの精油も綺麗な藍色をしています。AROMA SELECTでは、抽出した精油は、すべて富山大学に成分分析を依頼しており、化学的な視点での研究にも力を入れています。主な成分はカリオフィレンで、その他に、ピネンやミルセンなどの成分が含まれています。ブルーの成分については、まだ研究段階だそうで、時間が経過すると、このブルーが薄くなっていくという特徴があります。

新鮮なヨモギ精油に出会えるのは、日本では珍しく、その香りはトップノートで香るような強さはありません。控えめに自生するヨモギの植物のように、静かに香るような、でも、どこか懐かしく、心に染み入るようで、日本の森で気づかぬ間に感じる香りの中には、この香りも混ざっているのかもしれない、と感じさせてくれます。

 

立山の森林で芳香植物と出会う

森に生息するクロモジ

杉の葉

ヒノキの葉

ニオイコブシの花と枝

雄大なニオイコブシの木

樹齢200年ほどの天然の杉

クロモジの木

スギの木のそばによく自生するのがクロモジで、枝を折ると優しいクロモジの香りが新鮮に広がり、心が躍りました。スギの木が長くて太くそびえているため、それに比べて背丈が低く幹も細いクロモジは、スギに気を取られて、気づきにくいかもしれません。葉は、とても綺麗な若草色をしています。

ヒノキとスギの葉

ヒノキとスギの木が隣り合って生息している場面によく出会いました。山道を何気なくドライブしたり、歩いたりするだけでは、その木の違いに気づかないもので、葉の違いを細かく確認するうちに、遠目からでもヒノキとスギの木の違いを見分けられるようになりました。スギの葉に比べ、ヒノキの葉は平たく、綺麗な艶があります。林業に携わる方々の植物を見分けるコツのを教えて頂き、勉強になりました。

ミズメザクラの美しい木

ミズメザクラの木を至るところで見ることができました。幹部は色白で綺麗な艶があり、桜の木肌を思い起こさせます。葉を揉むと、ウィンターグリーン精油と同じ、シップの香りがふわーっと広がります。精油成分がほぼサリチル酸メチルのミズメザクラの葉は、昔から、木こりが怪我のケアに使っていたのだとか。山を知り尽くす人は、活用法も熟知しているものですね。香りには、どこか甘さもあり、爽やかさが心地よく、スーッと馴染みます。

しばらく進むと、目の前に一本ぐーっとそびえるミズメザクラの木がありました。あまりに凛とまっすぐ伸びていて、しばらく言葉を失いました。なんという存在感!伺うと樹齢50年くらいではないか、ということでした。精霊が宿っているようで、大きなオーラがあり、今回の山間部の見学で、この木が一番印象に残っています。

スギの研究と植林

「立山スギ」と言われるように、ここ立山では、多くのスギの木を見ることができます。その多くは、木材として利用するために植林されたものです。日本の森林では、スギとヒノキが多く自生していますが、ここ立山でスギの木が選ばれている理由は、ヒノキに比べて、雪の重みに強く、曲がりにくいため、雪深い立山の環境に適しているからだそうです。

3年育てた苗を植樹し、材木として利用されるまで25年~40年くらいかかります。簡単に木々は伐採できるけれど、植林してもそれだけの年月を待たなければならないのですから、森林保全の大切さを実感します。精油は、材木として伐採された木々の不要となる枝葉から採取されます。本来なら、使い道がないところを、精油として有効的に利用できるのは、とても嬉しいです。天然のスギと植林されたスギのいずれも案内してくださいました。樹齢200年、300年のスギも見ることができ、幹の太さに力強さを感じました。

森林ツアーの最後に、森林研究所に立ち寄りました。森林研究所では、植林の研究についても詳しくお話を伺い、さまざまな種類のスギの木が植えられていました。こんなに種類があるのかと驚きましたが、近年の花粉症の問題があり、花粉の発生しないスギの木の研究、植林が進められているそうですが、そのスギは、この森林研究所で見つかったそうです。スギ花粉に悩むことがなくなる日も夢ではないかもしれません。

 

おわりに

精油は、小さな小瓶に入っていて、その精油のもともとの植物の姿がどんな大きさで、どんな環境で育ったのかは、精油を使うだけでは知りえないことです。実際に生きている環境に触れ、植物が根を生やした環境に順応しながら、大地と太陽からエネルギーを吸収して生息しているということを想像し、その力強さ、優しさ、雄大さをしっかり感じることから、精油の素晴らしさ、大切さを実感することができます。蒸留の見学と森林ツアーを通して芳香植物の美しさに感動しました。植物の保全、成長に微力ながらも貢献していきたいです。

IMSIでは、精油ブランド『AROMA SELECT』の精油、タテヤマスギ、クロモジ、ニオイコブシを販売しています。スクールでぜひ香りをお試しください。富山の蒸留見学について、和精油については、講師・鈴木までお気軽にご質問ください。

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