NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●アロマセラピーによる喘息症状のコントロール●
フィリパー・バック/ジャネッタ・ベンスゥイラー 筆

フィリパー・バック
ジャネッタ・ベンスゥイラー

喘息は世界的に良く見られる慢性的な呼吸器系の炎症疾患で、様々な刺激により呼吸器が炎症を起こし、気道を狭めてしまうことによる。

 

表1喘息の症状

  • 喘鳴 (気管支の狭窄があり際に聴取されるゼイゼイという呼吸音)
  • 息切れ
  • 胸部の締め付け感
  • 睡眠障害(上記の症状による)
  • 痰の産生過多
 

表2喘息における気道狭窄の原因

  • 急性の気管収縮
  • 気道壁の腫脹
  • 慢性的な粘液の塊の産生
  • 気管壁の再造形
 

原因と対策

多くの刺激(アレルゲン、化学物質の吸引、運動、寒さ、笑う・泣くなどの強い感情)が喘息発作の原因となる。

従来の治療は、気管支痙攣に対して行われてきたが、近年では、気管支の炎症が根源的な原因であるという説が確立され、治療法を変えるきっかけとなった。第一線の薬物療法では、短期と長期の気管支拡張剤と、気管の浮腫を軽減し免疫を調整するための吸入用抗炎症コルチコステロイドが投与される。長期間に渡るコルチコステロイド剤吸入の安全性については、多くの患者や患者の親達が懸念を示している。

アロマセラピーの実践によって、喘息の治療薬を止める事は出来ないが、ステロイドの使用量を減らす効果があるとされる。また、症状のコントロールや悪化のサインを読み取ることができるようになる可能性もある。そしてアロマセラピーによるセルフケアは、症状を緩和し、肺の機能を高めて悪化を防ぐ助けになるであろう。

アロマセラピーというオプション

注意の必要性

この研究では、動物実験によるデータといくつかの人体実験によるデータが参照されている。

濃縮された精油の吸入によって気管支の痙攣が引き起こされることがあるため、喘息患者にトリートメントをするには、事前に十分なコンサルテーションが必要である。特にモノテルペン類を豊富に含む精油は注意が必要である。精油の直接の吸入は子供と、香りや塗料、テレビン油などに過敏反応を示す人には避けるべきである。Shulらによると、トリートメントは低い濃度から行い、精油の吸入を行う際には、ディフューザーを少しずつ近づけるなどの配慮が必要である。

精油を使用した喘息症状の軽減

気管支の鎮痙と気管支拡張作用

精油は、腸や心筋などの筋肉とは異なるメカニズムで気管支組織に働きかけ、気管支への鎮痙作用をもたらす。例えばメントールは、感覚神経と気管の平滑筋に対する鎮痛によって気管支の収縮や咳を緩和する。1日2回、4週間に渡って喘息患者にメントールを吸入させた所、症状のコントロールに効果があった。

気管支に対する鎮痙作用が確認されている精油と精油成分は以下のものがある。

  • カンフェン
  • メントール
  • カンファー
  • フランキンセンス
  • フェンネルスイート
  • ニゲラ(Nigella sativa、キンポウゲ科、クロタネソウ属)
  • アニスシード
  • ダマスクローズ
抗炎症作用と免疫調整作用

ユーカリ、カルダモン、スパイクラベンダー、カユプテ、ニアウリ、マートル、ローズマリーなど1,8シネオールを多く含む精油は、炎症の媒介物質の放出を促すロイコトリエンB4(LTB4)とプロスタグランジンE2を抑制することにより抗炎症作用があると言える。32名のステロイドを常用する喘息患者に対する二重盲検の結果、ユーカリ精油のカプセルを服用した患者はプラセボを服用した患者に比べてステロイドの容量を減らすことが出来た。ヒマラヤ・スギ(Cedrus deodara)もロイコトリエンの生成を抑制し、5-リポキシゲナーゼの抑制することから、抗炎症作用があると知られている。

多くの喘息患者はアトピー体質である。すなわち、ハウスダスト、家ダニ、動物の毛、花粉、カビ類などの吸入などが引き金となって、肥満細胞が顆粒を放出し、炎症反応を起こす。下記の精油と精油成分は、肥満細胞の顆粒放出を防ぎ、炎症の悪化を予防する。

・ヒマラヤ・スギ(Cedrus deodara)
・ラベンダー
・オイゲノール

ジャーマンカモミールに含まれるカマズレンとビサボロールは、肥満細胞に働くのではなく、ロイコトリエンB4(LTB4)を抑制する事による抗炎症作用を持っているため、喘息発作の予防薬となり得るであろう。

分泌抑制、粘液抑制、去痰作用

痰の過剰生成は、喘息患者に良く見られる特徴である。気管の粘液を分泌する杯細胞の数が増殖して粘液を作りすぎ、また血漿タンパクの浸出液と細胞片が固まることによって、気道の閉塞や感染症のリスクを高める。

精油が粘液の濃度や量に影響するだけではなく、気管の繊毛運動を正常化させるという多くのエビデンスがある。去痰作用のある精油の使用は粘液の過剰分泌や濃縮を抑えて、気道の閉塞を防ぐ効果があると言える。

粘液分泌抑制や気道の繊毛運動促進作用は、匂いの閾値(反応を起こさせる最小値)に近い濃度で最大の効果をあげる。αピネンを多く含む精油は分泌抑制作用があるが、同時に収縮を起こす可能性があるため、注意をする必要がある。メントールと1,8シネオールを多く含む精油は、窒息の恐れがあるため乳幼児の顔には塗らないように注意する。

表3 痰の分泌過剰症状に勧められる精油と精油成分

気管支の粘液分泌抑制作用
  • ティモール(タイムctティモール)
気管支の粘液分泌抑制作用&去痰作用
  • カンフェン(ブラックスプルース、マートル、ジンジャー)
  • メントール(ペパーミント、コーンミント)
  • 1,8シネオール(カユプテ、ニアウリ、ユーカリ・スミシ、 ユーカリ・ブルーガム、ユーカリ・ラジアタ、カンファーct1,8シネオール、スパイクラベンダー、カルダモン)
分泌抑制作用
  • フェンコン(フェンネルスィート)
分泌抑制&粘液抑制
  • アネトール(アニスシード、スターアニス、フェンネルスィート)
  • カンファー(ラベンダースパイク)
 
抗感染作用とマッサージの利点

呼吸器系の感染症は、呼吸困難や気道の炎症を起こし、症状を悪化させる。特にウイルスは喘息の悪化を招く感染源である。精油の抗ウイルス作用に関するデータは乏しいが、文献をリサーチしたところ、唯一見つかったのがジンジャー精油に含まれるセスキテルペン類であった。これらは、ライノウイルスに対する作用があり、風邪の予防や症状の悪化を防ぐのにも効果的であるとされる。

精油の吸入による抗微生物効果の実験では、インフルエンザ菌を始めとする、肺炎レンサ球菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などに対して効果があった。14種の精油の実験のうち、シナモン樹皮、レモングラス、タイム種群は、低濃度であっても抑制効果があった。次いで効果があったのはテルペン系アルコールを含む精油であった。しかし、吸入された精油は気管に蓄積される危険性があるため、期間や濃度、安全性などを考慮して行わなければならない。

ウイルス感染は免疫反応の低下によって起こりやすくなる。ストレス、不安、抑うつは視床下部・下垂体・副腎皮質系を過剰に活動させ、コルチゾールとニューロペプチドの分泌を促進させ、ウイルスから身を守るナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫活動を低下させる。フランキンセンスは、Tリンパ球の生産を促し、エキナセアに匹敵する免疫促進作用があった。マッサージをすることも、NK細胞に対して効果があることが確認されている。Diegoらは、うつ症状を持つHIV患者に対する週2日のマッサージセラピーは、NK細胞を増加させ、免疫力向上に寄与したと報告した。乳がんの患者にも同様の報告がある。Fieldらは、マッサージを受けることで喘息患者の不安を取り除きコルチゾールレベルを低下させ、肺の機能を増進させることが可能であると発表した。

予防とアレルゲンの回避

三次予防の目的は、症状を悪化させるハウスダスト、ダニ、動物アレルギー、真菌などのアレルゲンを回避することである。衣類や寝具、ぬいぐるみなどを55℃以上の湯で洗濯することによりダニを死滅させることが出来るが、代わりに精油を使用する事もできる。

Thujopsis dolabrata var hondae(ヒバ)の精油は、そのセドロールとツヨプセンの含有により、0.25%の希釈率で抗ダニ作用がある。ユーカリ、シトロネラ、ティートゥリー、スペアミントなどの精油にも抗ダニ作用が見られた。また、ブルボン・ゼラニウムの精油、シトロネロール、ゲラニオール、シトラールを室内で数日間に渡り使用することでカビの増殖を抑える作用が見られた。

都市部では、喘息患者が地方の5倍も見られるという。オゾンと喘息などの呼吸器系疾患との関連性があり、低濃度であってもオゾンにさらされると気道の炎症や肺に障害を受けることがある。Keinanらは、都市部で喘息の割合が高いのは、植物から作り出されるオゾン・スカベンジャー(オゾン除去物質)が少ないからであるとした。リモネンはオゾン・スカベンジャーとして効果的であり、吸入により肺の粘膜に蓄積し抗炎症作用があるという病理学的証拠を示した。この研究では、リモネンを多く含む精油の吸入は喘息の症状や悪化を防ぐことが出来るとされた。同じ実験では、1,8シネオールにはオゾン・スカベンジャー作用はないとされた。

 

結論

喘息の気道狭窄のコントロールと三次予防において、精油とマッサージは医学的治療と平行して重要な役割を担う。精油を使用したマッサージ、入浴、吸入などは免疫を高め、呼吸器系の感染症を予防する。しかし、直接の精油の吸入には十分の注意が必要で、乳幼児の患者や香りが症状の引き金になる患者には避けなければならない。プラクティショナーとして、私達は喘息発作の症状がいかに深刻なものかを認識する必要がある。発作は急激に起こるものもあれば、徐々に引き起こされるものもあるが、次第に症状が激しくなり、適切に治療を行わなければ死に至ることもあるのだ。

 
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