NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●タイの伝統ハーブ療法●
2004年(冨野玲子)

私がアロマセラピーの世界に入ったきっかけは、学生時代に留学していたベトナムでハーブと出会った事でした。以外に思う方もいるかもしれませんが、ベトナムを始め東南アジアでは、実に多くのハーブが消費されています。

一般家庭の食卓では、コリアンダー、ミント、しそ、どくだみ等、数々のハーブがなんと洗面器いっぱいに盛られて出てきます。それは、“薬味”というレベルでなく、メインディッシュ?と思われるほど、豪快に盛られてくるのです。おかずとしてそのまま食べたり、ご飯に乗せてヌックマム(魚醤)をかけて食べたり(ハーブ丼?)、パンに挟んだり、うどんに乗せたり・・・。

そして、一般の人々でもハーブの効用について実に良く知っているのも驚きです。ニキビが出来た時はアーティチョークのお茶、脂っこい料理にはディル、という言葉が日常会話にポンポンと飛び出してきます。自分の体質に合ったものを食べる、という自然療法の基本がしっかりと一般家庭まで根付いているのには、驚きでした。私の研究テーマはアロマセラピーと東洋医学の融合ですが、その原点はまさに留学中のベトナムでの体験にあったわけです。

前置きが長くなりましたが、10年来の夢であった東南アジアのハーブ療法を、タイで学ぶことが実現しました。中国、チベット、インドから医学や文化的影響を強く受け、又、ホアヒン、チェンマイなどの一流のスパ・リゾートを有するタイ王国は、まさに自然療法やハーブについて勉強する“穴場”と言えるでしょう。ここでは、タイの伝統ハーブ療法と、タイのスパ事情についてレポートしてみたいと思います。

ヌアボーラン(Nuat bo’ram、タイ古式マッサージ)の歴史は、2500年前、古代シャム王国まで遡る事が出来ます。Nuatはヒーリングタッチやマッサージ、bo’ramはサンスクリット語で古代、という意味です。

95%が仏教徒であるタイ王国はでは、まずその寺院の多さに圧倒されます。小乗仏教の伝来とともに、インドから自然療法をはじめ多くの伝統文化がタイに伝わってきた、といわれています。古代タイにおいては、医療を司るのは、厳しい修行を終え、瞑想法、医学や天文学などの知識を習得した僧侶でした。僧侶は野草を病気の治療や予防に使用し、現在の医師や薬剤師としての役割も果たしていました。

タイの最初の寺院で大学(医学大学)でもあるワットポーでは、現在でも僧侶が自然療法を学び、タイ式マッサージやハーブトリートメントが行われ、地元の人々だけでなく観光客にも人気を集めています。他の自然療法と同様、タイの伝統療法は、ホリスティックで自然との調和を大事にします。診断は、脈新、視診(肌の色、テクスチュア)、体温のほかに、食事、排泄についてのコンサルテーションによって行われます。特にハーブ療法においては、クライアントの体質を火・水・地・風の4タイプに分け、それぞれの体質に合ったハーブを調合します。煎じたハーブブレンドを内服したり、スチームで吸入したり、クリーム状にしたハーブを外用して用いていました。

残念ながら、これらの療法の多くは書物などではなく、口頭で伝承され、またわずかな医学書も18世紀のアユタヤ-ビルマ戦争によって破壊されてしまいました。

現存するタイの古代医学書は”Scripture of Disease”と”Pharmacopoeia of King Narai”の2冊だけとなっていますが、この2冊が現代におけるタイの自然療法の基礎となっています。1832年には、タイの伝統自然療法を後世に残すため、ラーマ3世の指示により、タイ古式マッサージの技法が石版に掘り込まれました。現在ではワットポーに保管されています。

日本や西洋の国々同様、タイでも最近自然療法の価値が再確認され、王立病院など医療の現場でも取り入れ始められています。特に産婦人科領域で伝統療法の復興が高まり、保健省主催の助産婦向けハーブ療法のセミナー等も行われています。バンコク市内では、トレーニングを受けた助産婦やセラピストの派遣も始まり、昔のように自宅出産や、ハーブを使用した産後のケアを望む女性も多くなりました。

ここで、産後のケアとして使用されているハーブ療法の一部をご紹介します。

ハーブボール

ドライハーブをコットンの布で包んだ物を蒸し、それを転がすようにして身体に当てる全身のトリートメントです。古代チベットの僧侶から伝わったと言われ、アユタヤ-ビルマ戦争では、傷ついた兵士の治療に使用されました。オリエンタルスパが初めてスパトリートメントに採用した事から、現代では老舗ホテル内のテラワンスパなど、タイ国内のサロンやスパなどで最も多く行われているハーブトリートメントのひとつとなっています。ワットポーでもトリートメントを受けることが可能です。使用されるハーブは、症状にあわせて10~20種類ブレンドが、セラピストによって行われる他、筋肉疲労解消、スキンケア、冷えの解消など、症状にあわせた市販のハーブボールも販売されています。

ハーブボールの使用法

  1. ハーブボールを水で湿らせる
  2. 約20分、スチーマーで蒸す
  3. 蒸したての時はハンドタオルでくるみ、転がすようにして身体をマッサージする。通常2個のハーブボールを使用し、冷めたら取り替える

使用されるハーブ例

Zingiber Cassumunar Rovb.

タイ語でプライと呼ばれる、最もポピュラーなハーブ。体温調節を助ける。駆風作用。筋肉痛の改善、アトピーの改善。

Tamarindus Indica

タマリンドの葉。炎症の改善。

Citrus hystricis pericarpium

こぶみかんの葉と果皮。鎮静作用、駆風作用。呼吸器系の疾患の改善。

Acacia concinna

アカシアの葉。鎮痙作用。ヘアケアにも良い。

Cryptolepis buchanani

Cryptolepis buchanani

その他、症状により黒ごまペースト、カンファー、レモングラス、ユーカルグロビュラスなどもブレンドされます。

◎ スチームサウナ

古代より、産後の胎盤剥離を促すために使用された療法です。現在では、発汗、解毒、リラックス目的でスパで応用されています。鍋でブレンドされたハーブを煮て、蒸気が上がったら穴の開いた椅子に腰掛けます。蒸気が逃げないように麻製のテントで身体を覆い、20~30分かけてゆっくり発汗させます。

使用されるハーブの例

croton oblongifolius

強壮作用、解毒作用、駆風作用、アトピー性皮膚炎の改善

derris scandens benth

利尿作用、解毒作用、筋肉疲労緩和

cinnamon sedge

鎮痛作用

 

◎ クレイポット

ソルトポットとも呼ばれる、産後の女性の子宮復古(子宮位置を元に戻す)を助ける為の伝統療法。産後7日間の集中ケアに使われる。

  1. 素焼きのポットに岩塩を入れる
  2. 炭でポットを焼く(岩塩を入れるのは、ポットを冷めにくくする為)
  3. 熱したポットをcrinum asiaticumの葉で包み、更にタオルで包んだものを腹部、背中、脚に当てる

他に、炭で焼いた煉瓦にハーブを包み、タオルで包んで当てるトリートメントもある。

このようなタイの伝統ハーブ療法の復興は、北部山岳民族地帯の人々の生活向上にも役立っています。96年に設立されたドイナムサプロジェクトは、それまで麻薬取引の為けしの栽培をしていた地域をハーブ農場に変え、良質なタイのオーガニックハーブ製品の輸出による人々の生活の向上に尽力しています。

現在では、チェンライを中心に、Lampang, Nakhon, Ratchasima, でオーガニックハーブの栽培が行われています。伝統ハーブ療法の技法とタイのハーブ製品は、既にカナダ、香港、シンガポール、日本のスパで採用されています。

 

最後に、バンコク在住のMKさんにお話を伺い、バンコク市内のスパ事情についての情報を頂いたのでご紹介いたします。

Sabahan Spa

お店に入るとアロマオイルが焚かれていていい香りがします。入ってすぐに靴を脱いでスリッパに履き替え部屋に案内されます。部屋は完全個室で、ほの暗くリラックスできます。マッサージは「ここ(太もも)いっぱい」とかお願いするとグイグイ揉んでくれます。Oil Massageにいくと、仰向けになったときに胸までMassageされるのが大抵ですが、ここは、胸にタオルをかけてくれるので安心。終わったあとはお茶とパイナップルが出されくつろいで帰れます。お店を出てしばらくすると体がポカポカしてきて「脂肪が燃えてる」という感じを実感できます。これで1時間700バーツ。(1バーツ約3円)

MARBLE HOUSE Spa&Massage

モノレールのSIAMの駅から歩いて5分位で行けます。ここは綺麗でおしゃれな感じで、部屋はやっぱりほの暗く、部屋にアロマが焚かれてます。施術前後にシャワーを浴びるシステムになっています。マッサージは1時間コースでしたが気持ちよくてあっという間に時間が過ぎてしまいました。アロママッサージで1時間1500バーツです。

Asia Herb Association

一軒家で入り口がとてもかわいらしく、まわりとはちょっと違う感じです。お店には日本人のスタッフの人が数名いて、日本語ですべて応対してくれます。 フットマッサージ+タイハーブボール タイマッサージ+タイハーブボール コースを選ぶと、特に中心的にやってほしいところを用紙に記入して渡します。マッサージのあとのタイハーブボールをスチームしているため、始終そのいいにおいがしてリラックスできます。

タイのハーブ療法は、中国の漢方と比べると、香がとてもマイルドで万人向けです。西洋のフィトテラピーの香に慣れてしまった私たち日本人にとって、スパイシーでどこか懐かしい香がします。マンゴスチンの皮、スターフルーツ、パパイヤペーストなどをパックに使用し、南国情緒を生かした素材でゴージャス感を演出しているサロンもあります。今後日本のスパやサロンで導入する所が増えてくると期待されます。今回勉強してきた知識と技術を生かして、様々なサロンで導入のご提案をしていく予定です。

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