NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●ギリシャ ママセラピストの休日●
2010年(嵯峨慈子)

2007年2月に男児を出産し、以来「ママ」というアイデンティティが新たに加わり、育児と仕事、家庭と仕事の両立を模索しながら3年間があっという間に過ぎました。プライベートな報告ですが、今年の5月に息子と夫を日本に残し、1週間ほど休暇を取得し、海外に行ってきました。妊娠中から数えると、この4年間で、こんなに長く子どもと離れるのは初めての体験、どういった経緯でこの旅が実現したか、旅先のギリシャでどんなことを感じたか、帰国後どんな変化があったか・・・ここでご紹介したいと思います。

息子が3歳に


かわいらしい赤ちゃん時代から、今や公園で遊びまわる幼児となり、身体の成長だけでなく、感情も自分の言葉で表現する年頃になりました。

この3年を振り返ってみると、あっという間だった気もしますし、長かったような気もしています。妊娠中は、漠然と「産後も仕事をしよう」と考えていましたが、生まれるまでは、生まれた後どういう風に働くとか、どんな仕事をするとか、あえてはっきり決めないでおこう、とも意識をしていました。

結局、産後3ヶ月のとき、雑誌の取材でブレインジムを紹介する機会があり、緩やかに仕事復帰していくことになるのですが、二度とチャンスが来ないかもしれない赤ちゃんの成長過程を、じっくりこの目で見たいという気持ちと、赤ちゃんの発達とケア法などを既に学んでいたことから「実際には、どのようなことが起きるのだろう?」という好奇心もあり、最初の1年は育児に専念することにしました。

育児は初挑戦ですので確かに大変でしたが、毎日赤ちゃんを眺めては、乳幼児特有の反射や運動のシーンをみて感動。体調管理に自然療法を取り入れ、その効果を自分なりに検証してみたりしていました。また、休暇中という貴重な時間を有効活用して、ベビーマッサージで世界的に著名なピーターウォーカー氏からベビーマッサージやキッズヨガを学んだり、赤ちゃん関係の本や脳の本などもたくさん読みました。

母子ともにべったりの生活だったので、息子が体調を崩せば、私も・・・といった感じではありましたが、この時期ならではのいろいろな体験・学びがあって、今思い返しても幸せな1年だったと思います。

その後、息子が1歳になり仕事に復帰。幸いにも区立保育園にすんなり決まりました。ただ、今まで家の中に子供一人だった生活から、急激に大勢の子供達との集団生活になることで環境の変化もあり、最初は発熱や下痢、嘔吐など体調を崩すことやハプニングも多く、月の半分くらいお休みすることもありました。

そんな状況でしたので、「講座や施術予約を請け負っても直前に何が起きるかわからない」と思うと、生徒さんやクライアントさんなど相手のいるお仕事を責任もって担当するのは、気持ち的にかなりの重圧を感じるようになりました。

そこで夫に相談して、週に2、3回「スタンバイデイ」を作ってもらうよう頼みました。保育園から呼び出しがあったり、お休みしなければならないときに、「夫が対応する日」を作ってもらったのです。

夫は「大丈夫!大丈夫!!」と軽い感じで考えていたようですが実際に会議中、保育園から呼び出しを受けて初めて「これは大変だな・・・」と体感したようです。また、IMSIには既に働くママさんもいたことで、この状況に理解を示してくれ、いろいろな対応を考えてくれました。

息子もようやく保育園に慣れた頃、フルタイムで完全復帰することに。最初は「フルタイムなんて、とても無理!パートしかないかな・・・?」と考えました。保育園の保育時間は延長保育をしても19:15分まで。定時に仕事を終えて超特急で電車に飛び乗り帰路についても、お迎え時間には間に合わない!働くママは同じような経験があると思うのですが、保育園のお迎えに、毎回時間通り到着するというのは至難の業です。現実的には無理かな・・・とあきらかけていた、そんな時でした。

夫から「お迎えは僕が行きますよ。夜中まで働かない代わりに、朝早く働き始めればいいですから」と言う、思わぬ言葉が出てきたのです!

夫は息子が生まれた時から育児に積極的に関わり、自分なりに子育てを楽しんでいたので、父子2人でお留守番もよくしてくれていました。その分、それが大変なこともよく知っていますから、自ら申し出るとは想像もしていませんでした。こうして、ママのフルタイム復帰が決まり、夫婦で協力しながら頑張ってみることになりました。その後も2歳頃までは、保育園に通えないこともありましたが、夫婦で分担したり、病児保育を利用して乗りきりました。

私もでしたが、この復帰で一番変化したのは、夫だったかもしれません。毎日、保育園のお迎えをして、その後、夕食の準備。ママに残業のある日はお風呂、寝かしつけまで担当することに。私が帰宅すると、夫と息子が二人ともリビングで寝ていて、すぐ横には、今まで遊んでいただろう、という、おもちゃが転がっていることも多々ありました。

その後、夫の仕事に変化がでて、毎日のお迎えが難しくなりました。そこで再度夫婦で話し合い、夫婦で保育園の送り迎えを半分ずつにするという形に変えました。それまで夫は全く夕方に仕事ができないし、私も定時に出られない時には、夫に申し訳ない気持ちと、職場での気遣いとの板ばさみで、自分自身でストレスを抱えていましたが、これをきっかけに職場にも再度相談し、働き続けることのできる環境を整えてもらいました。

工夫しながら育児と仕事との両立を模索してきた3年間。印象としては、子どもの成長を感じながらも自分自身の仕事を続けられた、その幸せもありますが、やはり、生活の中に余裕がなかなか生まれていないのも事実です。

 

日々の生活は保育園のお見送り、仕事、お迎え、育児。休日は仕事をしている日のしわ寄せで、掃除や洗濯などで、あっという間に時が過ぎる。これの繰り返し。とにかく、繰り返すことだけで精一杯な感じだったかもしれません。「そんなの、育児をしているのだったらあたり前よ!」というのもあるでしょうが、私の中に「余裕がない」→「心や脳の視野も狭くなりがち」→「育児にも良くない」という気持ちが生まれてきたのも事実です。

ギリシャへ

私は真っ青な海が大好きなのですが、今回の旅のきっかけは一冊の本でした。自由時間が無くても、脳だけでもポジティブに刺激しようと図書館へ出かけていたのですが、そこで何気なく、手にした本にエーゲ海のことが書かれていたのです。ちょこっと中を見て、思わずその美しさに惹きこまれてしまいました。活字は少しですが、写真がいっぱい。崖に並んだ真っ白なカフェやホテル、そこに美しいピンクのブーゲンビリアが咲き乱れ、のんびりとした様子のギリシャ人が写っているのです。海はもちろん、美しい青色!

「あー。こんな所に行きたいなぁ」
「ヨーロッパ行っていないなぁ」

と呟きながら本を眺めていると、夫がみかねてか?「行ってきていいですよ」と声がかかりました。

 

夫と子どもを置いて本当に行けるのだろうか?

「行ってきていいですよ」といわれても、本当に夫も子どもも大丈夫なのか? と思ってみたり、やっぱり家族でいけるところが良いかな? とハワイやグアムのことを調べてみたりしていました。しかし、夫に聞いても「(私の)行きたい場所がいい。ヨーロッパがいいのでしょ。子供の面倒はみますよ」との答え。そして、父子二人で行く旅を計画し、私の出発日に、息子の大好きな電車で長野に行く「田んぼ体験」の旅を重ねたのです。当然、息子は電車大好きなので大喜びに。

「ママはギリシャでしょ、のんちゃんは特急にのって田んぼ行くんだよ」と嬉しそうに話していました。

そして旅行の後には、実家の父母のところへ初のお泊り体験することが決まり、それも喜んでいました。おばあちゃんと一緒・・・ママとではない別の楽しみがある、ということのようでした。そうこうしながら、夫、そして実家の父母に協力を得て、楽しい1週間プログラムが出来上がりました。

私の方は出発前に「田んぼ」旅行にそなえて、自然療法グッズを準備しました。アロマの消毒スプレーや日焼けローション、虫刺されグッズなどを作成し、また、「緊急時のレスキューレメディ」としてホメオパシーやフラワーエッセンスなどをセットしておきました。

出発の日、私の出発より1時間遅れで出発する息子は、朝から特急列車「あずさ」に乗ることで頭が一杯。ワクワクしています。そして、あっさり「いってらっしゃい。気をつけてね!」と私を見送ってくれました。

旅の始まり

空港に向かう成田エキスプレスの中で、子供のいない不思議な違和感と、成田空港に向かうのは何年ぶりかな?と考えていました。

フライトはパリ経由、エールフランスでアテネに入るルートでした。過去の記憶ではヨーロッパ便の乗り継ぎはかなり大変なイメージがありましたが、海外が久しぶりというのと、普段の育児&仕事生活ではできない読書を堪能、また、今回旅の同行者である妹とも久し振りにゆっくり話ができて、窮屈な12時間も感謝しながらあっという間に過ぎました。

ギリシャでは「島に渡り海を見ながらゆったり過ごす」というのが旅のメインテーマでしたので、翌日の朝5時のフライトで早速アテネを出発し、キクラデス諸島にあるサントリーニ島に向かいました。

サントリーニ島

サントリーニ島はユニークな三日月型をした火山島として知られますが、同時に歴史も古く、この地では既に紀元前3000年頃から高度な文明が栄えていたと言われています。

断崖絶壁の上には、真っ白な家並みや可愛らしい雰囲気の青い屋根の教会があり、太陽の光が力強く海に照りつけ、キラキラと輝かせる町並み、地形、自然、海・・・と、とても一言では表現できない美しさに、世界中の旅人が魅了され続けています。

火山の隆起とワイルドフラワー

さてさて、ギリシャといえば古代文明、民主主義やアルファベッド文字の起源だけでなく、自然療法の発祥の地とも言われている国です。日頃、自然療法の仕事をしている身としては、行ってみたくなるのも当然の場所。

火山島「ネア・カメニ」には船で行きました

火山ウォーク

サントリーニ島では、火山を歩きながら石のエネルギーを感じ取ったり、ワイルドフラワーから元気をもらったり、伝統のキクラデス様式のスパでトリートメントを体験してみたりと、ゆっくりとリラックスをしながらも、大自然を満喫して充実した日々を過ごすことができました。

ギリシャ・キクラデス様式のスパ

息子のことを常に優先的に考える毎日から、ふと、自分ひとり、自分だけの時間を過ごせたことで、一人の女性として自分自身と向き合える、とても貴重な機会になるだけでなく、家族や両親、会社のことも頭に浮かび、日頃への感謝も、とても純粋な気持ちで行うことができました。旅の様子はブログ(http://saga-log.jugem.jp/)でも紹介しましたので、ここでは旅で感じたこと、気づいたことを、少し書いてみようと思います。

家族で食卓を囲んで、どのくらいの時間を一緒に過ごしていたかな?

ギリシャ人の家庭では家族の時間がすごく大切にされています。食事もゆっくり時間をかけ、おしゃべりを楽しみながら、ゆっくり味わうこと。日本での共働きや忙しい生活では難しい・・・といってしまえば簡単です。日頃は保育園のお見送り、息子を早く寝かせることに意識した生活が習慣化している自分に、気づき反省しました。家庭教育の統計では子どもが食事をしている間、親が途中で席を立ち、家事をしているケースが多いと言われていますが、実は、私もその一人だったのです。イギリス留学時代には、ゆったり家族で過ごすヨーロッパ人をみていて、私も、そんな家族をつくろうと思っていたのに、いつの間にかそのアイディアがどこかに消えてしまったのですね。

年、1ヶ月のうち、どれだけ自然に触れていたかしら?

本物の自然の美しさをみて、感じて、体験すること、これほど貴重なことはありません。いつも人、電車、パソコンをみての繰り返しでは、地球に住んでいる動物として、あまりに悲しすぎることかもしれません。島で野生の草花に触れたり、自分の足で大地を歩いていると、みるみるうちにエネルギーが足の裏から伝わり、たった1日で心も身体も、そして脳もパワフルに活性する体験をしました。自然療法というと効果とか安全性、技術に話が集中する傾向がありますが、もっと、ダイナミックなところを意識して、自然療法を伝えていきたいなと感じました。

これからの仕事・育児はどんな風にしてみようかな?

真っ青な海を見ながら過ごしていると、「今まで、子どもから高齢者、癒しのスパからスポーツ施設と、幅広い対象で運動指導、自然療法の仕事をしてきたけれど、私のどんなところが、人の役に立つのかな?」とか、「どういうことを仕事につなげていこうかな?」と新たに考えるきっかけに。日本ではけっして、見られないような非日常的な景色を眺めることで、脳が白紙の状態になって、いろいろなイメージが浮かんできました。自分の幼少期、学生時代を思い出すことから始まり、ママ、子ども、身体、脳ということから、ポジティブ、楽しく、みたいな形容詞のようなものまで・・・そんな考えの中で、人間にとって、幼少期の過ごし方がその後の人生に多大な影響があること、そして、それをサポートするのは家族なのだということ。自分と同じ境遇にいる母親、ママ達が元気になるような仕事をしたいな、という力強いメッセージも沸いてきたのです。

トリートメントを行なう時は、もっと気持ちよく動けるんじゃないかな?

ギリシャではスパでのトリートメントも体験しました。セラピストのタッチがあまりにも心地よく、ダイナミックだったのですが、彼女が、その動きに対して、「私の施術はfrom my heartなのよ 」と語ってくれました。考えてみれば、これはボディワークの基本ですが、改めて自分の施術が「from my Heart 」で行なっているかというと、そうではない部分もあるのではと気づきました。でも、その気づきがあっただけでも大きく、帰国後は、家族にするにも、友人にするにも、仕事でするにも、タッチも繊細かつダイナミックになった気もします。

9日ぶりの帰国

帰国後、家について真っ先に保育園に息子を迎えに行きました。目が合ったときには、いつものお迎えとは違う、ほっとした笑顔まじりで、にこっと笑って抱きついてきてくれました。ギリシャで感じた「ゆったりとした気持ち、ゆったりとした食事と会話」を意識しての初日でしたが、実践してみると、じつに美しいエネルギーが流れる感じです。

家族に話を聞くと、「ママがいなくても寂しくないよ」と応えていたようでしたが、帰国後3ヶ月間は、赤ちゃん返りしたように、オッパイにへばりついて眠るという日々が続きました。

今回の旅について、子どものことが心配で旅が楽しめなくなるかな?・・と予想もしていたのですが、本当のことを言うと、それが、びっくりするほど、あんまりなかったのです(笑)。これは、予想外でした。旅に向かう途中、そして旅先で、目にするもの、耳にするもの、皮膚で感じるもの、口にするもの、そのすべてが「最高!これが、ずっとしたかったのよ。幸せ!」といった感激ばかりで、久しぶりに母でも妻でもない自分自身の楽しみに没頭してしまったようです。ただ、弁解ではないのですが、思う存分旅をした分、「帰ったら子どもに、もっとのびのび接しよう」とか、「家族でもっと時間をつくろう」とか、「息子にもいろいろなものを見せて、体験させてあげたいな」と素直に思えたり、夫への感謝の気持ちと共に育児アイディアが次々に沸いてきたりと、久しぶりにそんなことを考える「心の余裕」ができたのでしょう。

「あんまり、こんなママいないよな?」と思いながらも、思い切って実行したヨーロッパへの旅。日々の生活をリセットするような貴重な体験したことで、脳が刺激され、クリアになって、育児や仕事にも、新たな気持ちで向かいあうことが出来ているように感じています。 

マザー&ベビー科主任講師として

今年はIMSIの仕事で新しいタスクを任命されています。それは、マザー&ベビー科を新設して、ママとベビーに役立つプログラムをスタートさせること。日頃、ママとの出会いから知ることは、自分の子どものために何か自然療法やエクササイズを学びたいと思っているけれど、何から始めてよいか分らない、というママが多くいます。

私自身は、大学で学んだスポーツ科学や中高年の健康運動指導に携わってきたこと、職業をセラピストに代えてからも、アロマセラピー、リフレクソロジー、リンパドレナージュ、ヘッドスパ、フラワーエッセンスなど多くの自然療法を学び、実践してきた経験からは、「どの自然療法も、それぞれに素晴らしい効果があるけれども、これひとつで完璧なものはない」という考えをもっています。その意味では、今、この状況ならアロマセラピーを、また、違う状況ではリフレクソロジーを、というように選択すること、または、効果のあるものを組み合わせることが大切と考えています。

産後のママのケアにしても、ベビーにしても同じ。やはり、状況別に自然療法やタッチセラピーを選ぶことが出来たら、真の日常生活に密着したケアにつながると信じています。加えて自然療法の世界では、出産後にママになるというよりは、お腹の中に赤ちゃんがいるときから、ママが始まっているという考えがあります。ブレインジムの創始者、ポール・デニッソン博士も「妊娠中のブレインジムは母子ともに大変良い。是非するべきだ」といっていましたが、私自身も、まさにそのとおりという体験を妊娠期に体験しました。そういう意味では、妊娠中からママの健康状態を保つことの重要性も実感しています。

ということで、新設のベビー&マザー科では、産後ママ、赤ちゃんへのケア、エクササイズに加え、マタニティへとメニューを増やして行く予定です。特に、私自身と同様に、育児に時間がかけられない働くママにも役に立つプログラムや、子どもが自分の夢にむかって成長するためのサポートとして、その土台となる脳の発達にも注目していきたいと思っています。また、海外との太いパイプを持つIMSIならではのプログラムも「子ども・セラピー」というテーマで紹介できればと感じています。

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