NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●英国統合医療をけん引する「クリスティー・モデル」
そして、リーダーピーターマッカレスについて●
2011年(飯野由佳子)

「タッチによってつながろう、日本中そして世界とも」

―2011年11月20日から27日までは、特別な1週間になることでしょう。学校、企業、団体がその枠を超え、それぞれの場所で“タッチ=触れること、人とのつながり”という共通項を広めていくのです。このコンセプトに賛同した海外セラピスト達も、国という枠を越え日本に駆けつけてくれます。

記念すべき第1回Touch for World International Week、この素晴らしい1週間のスタートをきってくれるのは、ピーター・マッカレスPh.D, M.A.です。

ピーターは、イギリス・マンチェスターで100年以上の歴史を持つ、がん専門病院としてヨーロッパ最大のクリスティーホスピタルで、補完療法チームリーダーとして活躍しています。NHS病院(国民の税金によって運営されている国営の病院。無料で治療が受けられる。)に補完療法チームを常駐させ、その活動資金を調達し、臨床データーを蓄積するなど、類を見ない“クリスティー・モデル”を確立させています。

イギリスでもこうした病院の存在は稀有であり、彼の功績は統合医療のモデルとして、国内だけでなく国外からも賞賛されているのです。

日本に初来日するピーターについて、そして彼との出会いなどをご紹介させていただきます。

 

ピーターとの出会い

“マンチェスターのクリスティーホスピタル補完療法チームが大賞受賞!”

英国リフレクソロジー協会AoRが発行するジャーナルReflexions2006年6月号の記事に、プリンス・チャールズの横で証書を受け取るピーターの写真が目に入りました。

これは2003年、チャールズ皇太子が代表を務めるプリンス・オブ・ウェールズ統合医療財団から、ベスト・プラクティス賞を受賞した時のもの。

 

もう一つの写真は、フットボールの名門マンチェスター・ユナイテッドの名監督、Sirの称号で呼ばれるアレックス・ファーガソンから表彰授与され、ピーターと二人肩を並べている写真。(2004年クリスティーホスピタル内でクリスティーホスピタル大賞を受賞した時のもの)

セレブリティーの写真が気になり、軽い気持ちでページに手を止めたのですが、すぐその記事に釘付けになりました。

がんによる様々な不調に対してチーム医療で補完療法を取り入れていること、4ハンド・リフレクソロジー、アダプテッド・リフレクソロジー、エアー・リフレクソロジーなど私が知らないリフレクソロジーをがん患者さんに提供していること、これらの地道な活動が認められ、2003年、2004年に大賞を得、2005年はガーディアン誌からピーター個人が最優秀公務員賞を受賞していること。

ちょうどその頃、拙著「世界の統合医療」を執筆する為、海外で統合医療を実施する病院を調査していました。

実は海外でも、統合医療を導入している病院は意外に少なく、ましてこれだけ評価を得ている病院はなかなかありませんでした。

ですので、是非クリスティーホスピタルを視察してみたい、ピーターに会ってインタビューを試みたいと思いました。

彼こそ、日本の補完療法界が求めているヒーローなのでは? と直感したのです。

 

ピーターへインタビュー

AoRのジャーナル記事がきっかけとなり、そこに載っていた連絡先へ早速メール送信。その4ヵ月後、10月にはピーターへの直接インタビューを試みに、マンチェスターへ向かっていました。

 ピーターは集中治療部門の看護師長、ナースコンサルタント、研究員の職に就きながら、看護、教育、研究と幅広いキャリアを築いてきました。

 クリニカル・リフレクソロジー、バイオダイナミック・ボティーワーク、セラピューティック・マッサージ、セラピューティック・タッチ等のトレーニングを受け、医療倫理で修士号、多発性硬化症に対するリフレクソロジー研究で博士号を修めています。

 補完療法士や医療従事者に向けた教育プログラムを編成し、サルフォード大学では講師としても活躍しています。著書にClinical Reflexology(Churchill Livingstone), Massage& Bodywork adapting therapies for cancer care(Churchill Livingstone)があり、他にもジャーナルの執筆などを通じ、医療現場に補完療法を取り入れた統合医療のロールモデルとして、彼の業績は国内外に知られているのです。

 実際お会いしたピーターは、患者さんの心を一瞬で温かく溶かしてしまうような、優しく大変魅力的な方です。クリスティーホスピタルの会長 Professor Joanが、まさしくその通り!と彼のことを紹介しています。

 「ピーターは素晴らしく、温かく、謙虚な男性です。ピーターと一緒に働くクリスティーホスピタルの誰もが、彼を深く尊敬しています。我々は彼を非常に誇りに思っています。言うならば彼は、クリスティーという王冠に輝く宝石のような存在なのです。」

「ピーターが発展させた“人間を中心とした”サービスは、患者に大きな恩恵をもたらしました。そのサービスは患者と同様、介護者やスタッフにまで及んでいることに対し、私は特に誇らしく思っています。彼のサービスは、介護者が直面するストレスやプレッシャー、どのように彼らを手助けすればよいかを知り尽くしており、結果としてそれは、患者を助けることにつながっているのです。」

一方、沢山の仕事を一度にさばいてしまう頭の回転の早さ、少しでも空いた時間があれば事務作業をどんどん片付けていたり、補完療法チームのスタッフにきびきびと指示を与えている姿など、シャープな一面も垣間みました。

院内の他のチームとも上手くコミュニケーションを取り、いかに彼がリーダーシップを発揮しているかを実感したのは、栄養療法チーム、作業療法チーム、言語療法チームが、私の取材にすぐ協力してくれた時です。 これはピーターの呼びかけで成し得た事。チームを超えた全人的医療ケアが、風通しよく日々行われているのが分かりました。

ピーターへのインタビューが終わり、一旦彼と別れ、その後再び、禁煙プログラムセッションで落ち合う約束をした時のことです。
その間、補完療法チームでアロマセラピーを担当するジャッキーへインタビューしたり、クリスティーホスピタル内を一人で視察したり、チームのリフレクソロジーセッションを見せていただいたりしました。

再び会った私にピーターが、厚さ2、3cm程にもなる沢山の書類を突然差し出したのです。今まで彼が発表してきた学術記事のコピーを、短時間の間に用意して下さったのでした!これには大感激しました。

その学術記事は“緩和ケアにおける補完療法”を始め、グラフや表を使ったエビデンス・ベースドの研究発表がされており、彼が長年着々と積み上げてきたキャリアを証明するものでした。

医療従事者を読者層にするジャーナル記事のために、臨床例を沢山とり、その結果を文字に落とし、発表していく作業は大変骨が折れ、時間が掛かります。その膨大な時間と労力から、どんなに人気の補完療法士であっても、学術記事をこれだけ多く発表している人はそう多くありません。ピーターはずっと、患者と実際に接すること、チームを組んでリサーチをすること、研究内容を発表していくこと、全てを続けてきたのです。

ピーターの功績はこうした学術面だけでなく、チームを大きくするための資金集めにも、多くのアイディアを導入していることが挙げられます。

トレーニングコースを開講したり、イベントや寄付を募ることで資金を生み出しており、それがとても楽しそうで無理がなく、ポジティブなイメージなのがいいな、と個人的に思っています。ハーヴェイニコルズ(高級百貨店)やマンチェスター空港、ショッピングセンターでのリフレクソロジーやマッサージのトリートメント、イギリスではポピュラーなラッフル(商品等があたるくじで、チケット代を払う。一人何枚購入してもよく、ラッフルチケットの売り上げは慈善事業に役立てられる。)やオークション、音楽イベントなどを催してきたそうです。

彼のオールラウンドな活躍には驚くばかりですが、インタビューして感じたのは、彼がそれに対して大変謙虚に捉えていることです。

「私が」とは言わず「私達のチームは」という言葉を多用するのです。

統合医療において、一人の患者に対して、医療従事者、家族、ボランティアまでがチームとして機能していくのが重要です。患者さんからも同僚からも信頼されているのは、こうした小さな所からかもと思い、彼のお人柄がしのばれるようでした。

 

私の道のり

私がこの世界に入ったきっかけは、補完医療の概念に興味を持ったからです。病気の治療や診断はできないけれど、一人の人の全体的健康(心・身体・精神)を“補い、完成させる”。

西洋医療で補えない部分、医師や病院からは得られにくいもの、例えばホリスティックな観点からの原因追求、痛みの緩和や不安の軽減、免疫系の向上、リラックス感の提供等ができる。病気を患う前のプライマリーケアに活かせる。

家族や友人のちょっとした不調にも、アドバイスができる。ストレス状況下でハッピーのお手伝いができる!一人の女性としても、人としても、そんな風になれたらいいな・・・と思い、アロマセラピーとリフレクソロジーの勉強を始めました。

実際トリートメントをしたり、講師活動をしながら時が流れましたが、補完療法の道に進んだ時のきっかけや思いのようなものは常に心にあり、自然に全人的医療に向いているがん患者さんのケアに興味を抱きました。イギリスでプロフェッショナルセラピストの為の講座に参加すると、がん患者さんへトリートメントを施すリフレクソロジストが多くいたことや、沢山のマクミラン・ナース(がんなどの余命が限られた疾患を持つ人々へのサポートをする看護師)がクラスに来ていたことも大きく影響しました。

そこから緩和ケア科でボランティアを始めたのですが、ベッドサイドの患者さんからは、足と下肢へのリクエストが一番多いのです。(クリスティーホスピタルも同様とのことです。)

リフレクソロジーをメインのセラピーにしている私にとって、自分の専門と患者さんからのニーズが一致することに大変やりがいを感じましたが、“医療現場での補完療法”というモデルを示してくれる理想の先生が、なかなか見つかりませんでした。

ピーターが培ってきた経験と知識こそ、私が必要としているものでした。実際に彼と話し、彼の学術記事、著書を読み、患者さんと接している仕事現場を拝見し、私もピーターのように、臨床、研究、発表の全てをまんべんなく行っていきたいと目標を新たにしましたし、何より彼のお人柄に少しでも近づきたいと思ったのでした。

2002年に「これからの補完療法は、統合医療に向かっている」とイギリスのリフレクソロジー学校の校長先生から統合医療という言葉を聞き、それを意識し始めました。

校長先生は続けて「そのためにも補完療法セラピストは高い質を保ち、それが医療の先生方や患者からも、信頼に足るものとする努力をしなさい。」とおっしゃっていたのが忘れられません。

ピーターや与えられた日々を一生懸命生きている患者さんから、これからも多くを学んでいきたいと考えています。

 

ピーターの初来日

産婦人科、新生児科、緩和ケア科など臨床現場で活躍するクリニカル・リフレクソロジスト達が集まり、それぞれの分野におけるリフレクソロジーについて記したClinicalReflexologyという本があります。

この本の代表編者として、ピーターと産科領域の専門家デニス・ティランとが二人、名を連ねています。デニスは中村あづさ先生との妊産婦講座で、皆さん既におなじみですね。

イギリスでは“医療現場における補完療法の実際”で名高く、既にイギリスで深い交流があるお二人が、東京IMSI主催Touch for World International Weekで顔を揃えるのですから、不思議なご縁やつながりを感じてしまいます。

2006年にお会いし、私に沢山のエネルギーを与えてくれたピーター。その後5年経ち、今度は彼を日本にお迎えできることを心から嬉しく思います。今回、彼と日本との関係を更に強い絆で結び付けてくれたのは、国際部の富田絢子さん。

彼女はこれまでアフリカ大陸、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、と世界の全大陸にいる様々な先生方の通訳、翻訳、コーディネイト等を一切引受け、出張に出かけてくれています。地球儀のような学校IMSIの影に、絢子さんの存在あり!

2011年に続々来日する外国人講師たちは皆、彼女に全面的な信頼を置いているのです。

そんな沢山のカリスマ達を見てきた彼女と話したのですが、
「ピーターはまさに『こつこつ』という言葉がぴったり。」
「『ピーターだからこそ、クリスティーホスピタルのトレーニングだからこそ、はるばるこの講座に参加した』とイギリス人たち皆が言ってた。」
「自分が信じた分野の仕事を一貫して続け、着実に歩んでいる。私達もそれを忘れずに進んでいきたいね!」

彼の姿を通じて、自分達の未来像を頭に浮かべ、昼下がりのカフェで二人妄想したのでした。私達がそうだったように、ピーターがきっかけとなり、皆さんにも何かを感じ取っていただけたらと思っています。

大病院において補完療法によるチーム医療を進めているピーターですが、今回の来日では医療従事者の方だけでなく、Touch for World International Weekのコンセプトにご関心を持たれた全ての皆さんに、ピーターをご紹介したく思います。

2011年3月11日の大震災を経験した私達。絶望のふちを経験した終末期患者を長年、触れることによって、温かな言葉掛けによって、真摯な態度によって、ずっと見守ってきたピーターが発するメッセージは、今まさに日本の私達が必要とするものではないでしょうか。彼の来日に、シンクロニシティー(意味のある偶然、共時性)を感じています。

統合医療のパイオニアとして輝くピーター・マッカレスとクリスティー・モデルが、アジアに初めて上陸します! 日本とピーターとのケミストリーによって、どんなものが生み出されるのでしょう?  参加してくださる皆さんの胸に、深く刻まれるような講座になればよいなと、楽しみに思っています。

 
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