SEMINARS & EVENTS

●植物療法の国際カンファレンス●
“Botanica2016”参加報告
鈴木 希

●はじめに

「カンファレンススタート!」

「Rhiannon Lewis氏と」

「開会の挨拶を述べるShirly Price」

2016年9月2日から4日間イギリスで開催されました「Botanica2016」に参加しました。イギリスのアロマセラピストやハーバリストが中心となり、2年に一度行われる国際カンファレンスです。2年前は、アイルランドの首都ダブリンで開催され、今年はロンドンから南へ1時間、ブライトン駅から約6キロのところにあるサセックス大学のキャンパスで、カンファレンスとワークショップが開催されました。世界各国で活躍されているアロマセラピストやハーバリストなど、アロマやハーブの第一線で活躍されている方々の最近の研究内容や、植物療法の展望について3日間たっぷりと講演をお聞きし、4日目には、Gabriel Mojay氏とTimothy Miller氏によるワークショップに参加しました。アロマセラピーに関わる今後の可能性を十分に秘めた新しい分野への研究内容を多く知ることができ、非常に満足できるものでした。

今回のカンファレンスでは、46カ国から約400名が参加されました。人数の多さと、より国際色豊かな雰囲気に緊張と期待が混じり、グローバルなアロマセラピーの世界が開けた気持ちでした。

開会の挨拶は、Rhiannon Lewis氏です。カンファレンスのメインオーガナイザーで、クリニカルアロマセラピーの専門誌として評価の高い「International Journal of Clinical Aromatherapy」の著者ならびに編集者であり、プロヴァンスに住む彼女のもとへ、精油の勉強のために世界中からセラピストが集まります。カンファレンス終了後にご挨拶をさせて頂きましたが、とてもチャーミングな笑顔溢れる方でした。

その後、アロマセラピーのための著書を多数出版されているShirley Price氏の挨拶が続き、会場が益々盛り上がったところで、薬用植物や芳香植物を育て世に紹介していくことをライフワークにされている方々のお話が始まりました。

≪講演の主なテーマ≫

1日目: 植物療法の本質と再び繋がろう
2日目: 精油のクリニカルなアドバンスアプローチ/活用されるフィトアロマセラピー
3日目: 植物エキスの多様性/植物療法の多様性
4日目: ワークショップ

 

●カンファレンス1日目

「ギリシャからJanina Sorenson氏の講演」

「クロアチア産の精油とハイドロゾル出展ブース」

「蒸留器の販売ブース」

“植物療法の本質と再び繋がろう”というテーマで、植物療法の再興を提唱し、各国で芳香植物を育て精油を生産されているディスティラーの方々のお話をお聴きしました。様々な環境の変化と闘いながら、その風土で懸命に育つ植物の生命力を大切にし、よりよい活かし方を研究しながら、私たちセラピストのもとへ新鮮な精油や芳香蒸留水を届けてくれる情熱的な姿勢に感動しました。

ディスティラーの一人、PhiBee Aromaticsの経営者であるClare Licher氏は、アメリカ南西部のアリゾナ州で、4,000種以上の植物と多数の伝統的な民間植物療法について研究・発信し、以来80種にも及ぶ植物の蒸留を行っています。この研究により、新しい芳香植物の発見と精油の生産につながっています。

また、ギリシャから野生種の芳香植物を蒸留されているJanina Sorenson氏の講演では、20年以上にもなるクレタ島での野生種芳香植物の保護と生育について紹介してくださり、その拘りと植物生理学やエコへの挑戦・多様な種の保存に対する問題をお話してくださいました。カンファレンスでは、精油やハイドロゾル、蒸留器の販売会社など30社にも及ぶ出展ブースがあり、そのひとつで彼女が販売している精油を買うことができました。私が購入したサイプレスからは、ピリッとした苦味と爽やかさが同時に広がり、清清しいサイプレスの香りをいっぱいに感じることができ、野生種の力強さを感じました。

もう一つ印象的だったのが、フランキンセンスやミルラの精油の販売促進を通じて、ソマリランドの経済復興に尽力されているMahdi Ibarahim氏です。2004年からビジネスを立ち上げた彼は、アフリカ大陸東端のソマリア半島に位置する共和国、ソマリランド出身です。ソマリアからの独立を目指しているのだそうですが、Mahdi氏も内戦により国土を追われ、難民としてアメリカに渡った一人。彼はフランキンセンスとミルラなどの樹脂精油を通じて、母国の経済を元気にしたいと精油の採取・販売を行っています。フランキンセンスやミルラは、アフリカやアラビアの国々との歴史的関わりが非常に深い精油です。歴史の美談に登場することも多い精油ですが、現在の産出国では、どのような現状を抱えているのか、精油を手にする時に考えさせられます。

 

●カンファレンス2日目

「Luc Marlier氏による講演」

アロマセラピーの興味深い研究や補完療法として実施されているアロマセラピーの発表は2日目のテーマ“精油のクリニカルなアドバンスアプローチ/活用されるフィトアロマセラピー”において講演されました。

【多剤耐性菌抑制と精油の研究】
イギリス、マンチェスターメトロポリタン大学の医学微生物学名誉教授であるValerie Edwards Jones氏は、医療機関内での耐性菌の流行に対する精油の抑制効果についての研究内容を発表されました。近年様々な多剤耐性菌の発生が問題視されるなか、免疫不全患者にとっては命に関わる問題で、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やバイコマイシン耐性菌、ペニシリン耐性菌に対する研究が進められているそうですが、今回、精油の抗ウィルス、抗菌、抗真菌作用を期待した研究結果を発表されました。研究では、MRSAとブドウ球菌の株に対し、ティートゥリー・パチュリ・ゼラニウム・ラベンダーなどの精油が試され、単体での使用と2種類をブレンドした複数の試験により、精油の抗生物質耐性菌への効果が認められました。精油の更なる効果に期待が高まります。

【赤ちゃんとアロマセラピー】
フランスのストラスブールにある、National Center of Scientific Research(CNRS)の化学者であるLuc Marlier氏の講演テーマは、≪The power of odours at the start of life≫というテーマ。訳すと「新しい生命が持つ嗅覚の力」 でしょうか。誕生したばかりの赤ちゃんの嗅覚はどの程度心身に影響し得るのか、匂いの感覚を脳がキャッチし、どのように行動に伝わるのかなどが研究されたものです。Luc氏の研究では、保育器での生活が必要な赤ちゃんに、精油を用いて実験をしたところ、身体の動きや、食欲を示す行動に良い反応があったと報告しています。また、ネガティブな反応は認められなかったという結果もありました。赤ちゃんを取り巻く「香りの環境」に研究の目が向けられ、健やかな成長に何か役立てられたらいいなと期待したいです。

【高齢者とアロマセラピー】
日本からも、長年にわたり高齢者誤嚥性肺炎・摂食嚥下障害の研究・診療に携わっておられる海老原孝枝医師が、「アロマセラピーを活用した高齢者摂食性嚥下障害に対する包括的戦略」についてお話くださいました。高齢者が健康を維持、促進するうえで、誤嚥による障害は重要な問題であり、肺炎や栄養失調、感染症を引き起こす原因となり得ます。ブラックペッパーとラベンダーの精油を用いて、脳内の知覚神経、嗅覚を刺激することにより、嚥下反射および運動の改善が認められ誤嚥予防に繋がる、という内容の発表でした。世界で最も高齢化が進んでいると言われている日本で、このようにアロマセラピーを活用した研究が行われていることは将来の可能性を感じ、非常に興味深い内容でした。

【補完療法とアロマセラピー】
補完療法として行われている臨床アロマセラピーの実際についても複数の国からの講演がありました。フランスのColmar Civilian Hosipitalsでは、看護職員がアロマセラピーケアを学び、無菌室やICU、緩和ケア病棟などで、痛みや吐気、便秘などの肉体面と、不眠や感情面でのケアのためにアロマセラピーが導入されているという報告でした。

 

●カンファレンス3日目

「オランダからMadeleine Knapp-Hayes氏の講演」

「Gabriel先生と」

植物療法の再評価と発展により、新たな可能性や取り組みを提案する講演内容が多くありました。中でも看護師でハーバリスト、アロマセラピストでもあるMadeleine Knapp-Hayes氏(オランダ)は、CO2エキストラの更なる可能性を提唱しました。熱を使わずに揮発性成分を抽出できる方法として30年ほど前より研究されてきたCO2エキストラには、もっと評価されるべき特徴があるとしています。水蒸気蒸留法で抽出するよりも多くの、分子量が重い芳香成分や植物に含まれる天然のワックスや色素が一緒に抽出され、精油とは異なる構成成分ではあるものの、香りがよりリッチで、溶剤抽出法のように溶剤を含まず、水蒸気蒸留法のように大量の水や熱を使わないため、人体にも環境にもメリットがある抽出物と言えるそうです。講演では、Ginger CO2、Chamomile Blue CO2などが紹介されました。まだまだ研究をしていく必要があるとしながらも、CO2エキストラが今後更に普及する可能性を感じる講演内容でした。

~ワークショップに参加~
カンファレンス翌日は、私の恩師であるGabriel Mojay氏のワークショップに参加しました。アメリカの自然療法医(naturopathic physician)で、鍼師でもあるTimothy Miller氏と共同の講義で、関節痛に対するケアとして食事面や生活面からのアドバイス法やフィトセラピー、ジェモセラピーなどの植物療法、東洋医学的な精油のアプローチを学びました。様々な自然療法を評価し活用していくために、ライフスタイルを総合的にアドバイスする意識を高く持つことが今後セラピストは益々求められるだろうなと感じました。

 

●カンファレンスに参加して

「講演された方々」

カンファレンスでは午前午後とテーマが分けられ、合計27の講演がありました。イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、アイスランド、ギリシャ、南アフリカ、日本、クロアチア、オランダなど、各国で植物療法を実践・研究されている方々の講演でした。アロマセラピーや精油に関する内容が多いなか、ハーバリストによるハーブの幅広い活用法の提案や、フラワーエッセンスの講演もありました。私たち人間が健やかに生きていくうえで、植物を上手に利用し、これからも継承、発展させていくためのユニークで斬新な研究発表を聴くことができました。各国が抱えるヘルスケアの問題や補完療法の可能性に、植物療法がより豊かに多くの選択肢を持って活用されることを今後も期待します。

 

●今回も訪れましたキューガーデン!

時間を作って必ず訪れたかったキューガーデンに、今回も行くことができました。植物のベストシーズンは過ぎてしまいましたが、さすがロンドンのガーデナーさんたちです。キューを訪れる観光客を飽きさせないように、素敵な植物の演出をあちらこちらで見つけました。温室の前の生垣に、等間隔に並んだヨーロピアンな石の鉢は、すべて種類の異なるゼラニウムで構成されていて、アロマセラピーで利用されているゼラニウム種は残念ながらありませんでしたが、10種類以上のゼラニウムを観ることができました。

もともと精油に惹かれる前に、植物からこんなにも元気をもらえる!と気づいてハッピーな気持ちになれたことが、アロマセラピーを始め植物療法を学ぶきっかけでもありました。芳香植物や薬用植物など、人間が作ったカテゴリーを無視して、全ての植物には自らを自らの力で治癒させる生命力と、自らの命を絶やさないための素晴らしい順応力があると思います。キューガーデンには、世界中から珍しい種の植物が届けられています。 世界の植物に学名がついているのは、その歴史的進化が研究されているのは、まさしくここキューガーデンです。植物研究の総本山といったところでしょうか。キューガーデンの温室の中で、珍しい姿をした植物に出会います。目にする植物は、どうしてこんな形をしているのだろう、どうしてこんな色になったのだろうなどなど、、、 不思議&面白さが広がっています。一つ一つの植物のちょっと変わった形やカラーを見ていると、生命力そのものに個性があるから、さまざまに進化する可能性を秘めているのだな~と思います。たっぷりエナジーを感じて、生きていることに感謝する気持ちがじわじわと溢れてきました。

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